JR常磐線の富岡駅1番線から見える未来

東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の影響が今なお残る富岡町
ここ2年ほど、仕事の都合で富岡町に訪れる機会が多かったのですが、一昨年の春に帰還が始まったこの街は、廃炉作業や周辺の復旧工事も相まってか、中心部のショッピングモールはそこそこ活気があり、廃炉に携わる人々のコミュニティが限定的にも認められる状況です。
他方で、帰還困難区域のすぐ手前ということもあってか、住民数はまだまだ少なく(ほとんどが単身赴任者のため、住民票を当地に移していない)、もともといた住民たちが皆戻ってきたとは言い難い現実もありながら、2017年10月には常磐線が富岡駅まで再開、いよいよこれから、という段階に入ったように感じられます。
※なお、水戸・東京方面からの列車はここ富岡駅で途切れているため、富岡駅から北への公共交通はバス代行輸送のみという状況。仙台側は浪江駅で途切れている。

常磐線京口の終点となっている富岡駅を利用する人たち

そんな富岡駅、5両編成の電車が到着すると意外にも多くの人が駅から吐き出されてきます。彼らは駅前ロータリーで待ち構える企業の貸切バスに早々に収まり、事務所や発電所へスムーズに向かってゆきます。
まさにMaaSが目指すラストワンマイル輸送へのスムーズなモード切り替えといった感がこの地には存在し、ある意味大変先進的で素晴らしいのですが、一点構内に目をやると、ホーム運用の点で不可解な部分が残ります。

目の前のホームに列車が来ない状況

富岡駅を俯瞰するとこんな感じです。

田舎によくある駅母屋にホームが併設された2面3線の構造。
同様の駅は全国に無数に存在するが、本数の少ない駅では、アクセスの良い駅母屋直結ホームが使われることが多く、ことさら事実上の終点駅となっている富岡駅は、同時に2本以上の列車が侵入してこないダイヤとなっていることや、利用客の多くが重い荷物を伴った長期出張者であることから、同様の運用とすれば良いと思われますが、現状では跨線橋の上り下りを乗客に強いています。
このあたりは2020年に控えた全線再開(浪江〜富岡間)との兼ね合いから、あえて上り方面の乗り場を固定していると考えられなくもないのですが、そもそも本数が少ない中で、皮肉を込めていえば見事な上下線ホーム分離の徹底ぶりを見せています。
そこは工夫をしてもらって、極力駅母屋直結ホームを使うようにしてくれれば良いのに、と思うのですが。

特急列車を諦めていない証拠?

開通は2020年の予定ですが、富岡駅の1つ仙台側にある夜ノ森駅は島式ホームの2面2線。上下線の行き違いができる構造になっています。電車の本数を考えると、必ずしも富岡駅で上下線での行き違いをさせる必要は薄いと思われるので、結局富岡駅の到着ホームは改札真正面の1番線に固定できそうな気がします。
ではなぜ前述のようにいちいち階段を昇り降りさせるようなことをしているのか・・・?

それはずばり、仙台方面まで再開した折に、下り(仙台方面)専用にすることは勿論のこと、来たる特急列車の再開の可能性を残すものではないかと考えられます。

かつて常磐線を走っていた特急列車ひたち号は、上野駅〜仙台駅を通して走っていました。ところが、福島県にあるいわき駅を境に利用者数の差が顕著になりつつあったことから、JRでは、震災前の段階で2012年春のダイヤ改正をもって特急列車の運行系統をいわき駅で分断する計画を立てていました。ただし史実では3.11の影響で特急列車の系統がいわき駅で分断されたまま現在に至っているわけですが、今でもひたち号がいわき駅以北に足を伸ばさないのは、誤解を恐れずにいえば計画通りというわけです。ではその計画にあったいわき駅以北の特急列車復活は消えて無くなってしまったのでしょうか?

もちろん、未来永劫特急列車が走り続けるのかというのは微妙ですが、浜通り地区は30〜40年続く廃炉作業の拠点。さらにイノベーションコースト構想なる国家構想が控えています。富岡駅の構造を見ると、特急列車再開の灯火はまだ消えていないのだとそう感じました。