【読書レビュー】穂波了『月の落とし子』

新型コロナ騒ぎで家にいる時間が8割以上増えたことから、ツイッターやユーチューブを見る時間が増加し、そして、飽き、何をするわけでもないのにとりあえずスマホと睨めっこをし、首が痛くなり、空費した時間に思いを馳せ、勝手にやつれ、仕舞いには何を無駄なことをしているのだろうと部屋を見回した時に積んであるのを発見した本を読むことにしました。

 

第9回アガサクリスティー賞受賞作、『月の落とし子』。

 

 

あらすじ

それは人間の進歩を証明する、栄光に満ちたミッションのはずだったーーー。

 

物語は宇宙飛行士、工藤晃の視点からスタートする。スタートするのだが、物語の起点はそこでなく、さらに過去に遡るのだ。基本的にはそれ以降の出来事が、複数の視点からおおむね時系列順に語られていく。

現代より未来の世界。新時代の月探査「オリオン計画」で、月面のクレーターに降り立った宇宙飛行士が吐血して急死してしまう。

生き残ったクルーである工藤晃たちは、急死した宇宙飛行士の回収のため、再び月へ向かうことに。回収は成功、あとは回収した遺体とともに地球に帰還するだけ。ところがクレーターに降り立った宇宙飛行士を死に至らしめた未知のウィルスが船内で感染を広げてゆく。

一方その知らせを受けた地球では、道のウィルスを地上に持ち込ませないため、宇宙船ごと爆破する計画が持ち上がるのであった。

 

コロナ騒ぎに通じるようなストーリー

この本を購入した当時は、まさか外出自粛令が敷かれるような自体など想定していなかったろうと思うが、読めば読むほどこの本に書かれているストーリーが、最近の実生活とラップする。

作中では、宇宙船爆破計画は惜しくも失敗し、宇宙船は日本に墜落してしまう。そのことで、未知のウィルスの感染が広がってしまう。政府も全面に出てどうにか感染を広げないように対策を練るが、なかなかうまくいかない。結局はある種で非人道的な割り切りを伴う方法での鎮圧を図ろうとする。

現実世界(国内)では、コロナによる都市のロックダウンは実施されていない。他方、医療体勢は限界に近く、いつ崩壊してもおかしくない状態である。

唯一の救いは、国内においては、まだ市中で野垂れ死ぬような事例が頻発していないことであるが、この作品ではどんどん死んでいくのである。そして、未知のウィルスは例により感染力が強いため、遺体に触れると感染する。物語が進むにつれ、登場人物達はこの未知のウィルスに追い詰められていくのだ。

 

行動変容を引き起こすということはないが

いかにコロナ騒ぎに通じるようなストーリーだからといて、読んだことをもってなにか具体的に適切な行動をとるようなマインドセットに至るかは疑問である。

ただ、今後コロナの影響がさらに延展あるいは拡大する場合には、個人レベルにおいては一定程度参考になる想定となるのではないか。

一方である種シン・ゴジラ的要素もあるので、この本を読んだからと言って悲観しないでほしい。おそらく政府は国民の生命をあからさまに蔑ろにはしないはずだ。

月の落とし子

月の落とし子

  • 作者:穂波 了
  • 発売日: 2019/11/20
  • メディア: 単行本
 

 

読書という賢そうな行為が苦手な私でも、休み休みでおよそ1週間程度で読むことができた。

なお書籍中には、著名作家によるレビュー(受賞の講評)も入っているので、ぜひ一度手に取られてはいかがだろうか。