東京は既にMaaSを実現している

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ICカードが鍵となるか?

少し前から、マイカー以外の交通に関して、その運営主体を問わず全ての交通手段による移動をサービスとして捉えるMaaS(Mobility as a Service;まーす)が提唱されている。

MaaS は、ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイ カー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ 新たな「移動」の概念である。

https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf

 

MaaSは過疎地交通や高齢者の免許返納といった近年表面化しだした問題に対する一つの答え的であり、様々な企業や団体が、都市計画を含めてその実現に本腰を入れ始めている。

その一方で、MaaSはその他交通インフラと同様、都市部から先行して整備が進められていることから、高く掲げられた目標である過疎地交通(過疎地には高齢者が多い)の利便性向上ならびに交通弱者の救済までの道のりは果てしない。

つまるところ、MaaSといっても、目下、都市部の高齢者、というような隠れ交通弱者だけを対象とした、地味なところへの小さな光に過ぎないのが実情ではないだろうか。もちろん、便利にはなるのだろうか。痒いところに手が届かない。

1.交通を”クラウド化する”とは?

テレビ東京で放送されていた「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」をご存知だろうか。太川陽介さんと蛭子能収さんが、普通の路線バス(ローカル路線バス)だけを乗り継いで目的地を目指す、という番組だ。

www.tv-tokyo.co.jp

番組中、何度も「バスがない」と言われ、場合によっては何キロも徒歩で移動することもある、奇抜な旅番組である。

当然ながら、出演者たちは四苦八苦しながら制限時間内に目的地にたどり着けるよう知恵を絞るわけだが、自分に置き換えてもバスは難しい印象がある。

地方都市に出張した際、目的地に向かいたい場合、どのバスに乗れば良いのかわからず、またバスがどのバス停から出発するのかもわからず、そしてそのバス停がどこにあるのかもわからず、やっとのことでバスに乗っても、何個目の停留所なのか、あと何分で到着するのか、運賃はいくらなのか、などなど、わからないことだらけだった、と言う経験はないだろうか。

少なくとも、全国統一的なルールや雛形を持つ鉄道と比較し、バスは極めて初見の乗車難易度が高い乗り物だと思う。(また、乗り場が簡素なため、気軽に問い合わせができないケースが多い)

 

さて、そんな中で交通を”クラウド化する”とは一体何なのだろう。

ーよく言われているのは、乗換アプリ+αである。移動の経路はITがフォローしてくれる。その先の面倒を見てしまおうという部分がαだ。ではαとは、具体的には、何か。

調べてみると、これが非常に情けない。uninnovativeの極みでしかなかった。

2.海外の動き

Uber滴滴出行は異なる交通モードの連携と言えないため除く。

 

諸外国では、日本のSuicaPASMOのような、統一的な交通系ICカード企画が存在しているところが少なく、あったとしても、会社ごとにカードが違う、といった具合である。

 

そんな中、北欧ではウィムやクーティといったサービスが登場した。Whim(ウィム)は、フィンランドの首都ヘルシンキにおけるMaaSアプリである。

data.wingarc.com

本当にしょうもないと言うか、果たして流行っているのか、まことに不明なのであるが、このウィムで何ができるかと言うと、以下の2点だ。

 

★『ウィム』でできること

  1. いくつかの交通手段から最適な移動ルートを自動検索する
  2. 予約から決済まで一括して行える

一つ目については、Yahoo乗換案内で済ませることができるし、二つ目も、直前になって「やっぱやーめた」が出来ず、ドタキャンという自由が制限されかねない。つまりは蛇足なのだ。

さらに言えば一つ目はGoogle マップでも出来そうだ。余計いらない。

 

 他の地域や都市を確認しても、結局はウィムの域を出る存在はない。東京や大阪では当たり前になっていることが、できるようになって、当地では大喜びをしているに過ぎないのである。

最も、都市移動ではなく、都市移動となれば、話は変わってくるが。

(エクスペディアとかスカイチケットといった外資系が幅を利かせる格安航空券アプリに近いものがある)

 

3.で、過疎地域はどうなる?

日本の交通インフラは世界最先端と言っても過言ではない。秒単位で正確な鉄道、張り巡らされた路線網、無数に存在する空港、それらを繋ぐバス・タクシー。当然ながら、その利便性もまた年々高まっており、料金支払いについては、交通系ICカードの普及ならびにクレジットカードとの連携により、特に運賃を意識することなく乗車することが日常になっている。

が、これは都市部に限られた話である。

少し田舎に行けば、ICカードで支払いができる店がコンビニくらいしかなくなり、都会モンはパニックに陥るのだ。

そんな時に助けてくれるMaaSってありましたか?そう言う観点で考えてくださいよ、ということを申し上げたい。

田舎でICカードが使えないのは導入コストが嵩むからである。バス共通カードは津々浦々のバス会社で使えたのに、PASMOはそうはいかない。

また、そもそも公共交通インフラが脆弱で、鉄道はおろかバスもろくに走っていない地域では、デマンド交通を用意する必要があるが、これもまた行政コストになるから、都市部に移り住んでもらえるならありがたい、と心のどこかで役人は思うだろう。

 

デマンド型の乗合タクシーが全国の自治体で導入が進んでいるが、いかにデマンドを拾うか、という観点から効率化を目指しているプロジェクトがある。豊田グループの大手サプライヤーアイシン精機の乗合サービス『チョイソコ』だ。

www.choisoko.jp

自動車部品サプライヤーであるアイシン精機が得意とするカーナビ技術を用いて、複数の利用者・複数の目的地をより効率的に、時間を明確化して運行することが可能となっており、2020年度内に全国20箇所への導入を目指しているとのこと。

『チョイソコ』の目的はまさに交通弱者救済にあるのだが、これを来訪者が簡単に予約ができるシステムが入れば、それこそMaaSではないだろうか。

 

4.まとめ

とはいえMaaSも一朝一夕で出来上がるものではない。MaaSは移動サービスの統合段階を4つに分けており、現在はまだ走り出したばかりなのである。

https://www.mlit.go.jp/pri/kikanshi/pdf/2018/69_1.pdf 

レベル4 政策の統合

レベル3 サービス提供の統合

レベル2 予約・決済の統合【Whim(ウィム)など】

レベル1 情報の統合【Yahoo乗換案内など】

レベル0 統合なし

 

MaaSはMaaSが必要とされる人々からの声に応じて策定されたわけではない。交通渋滞の緩和や、二酸化炭素排出量低減といった政策目標から導き出された施策である。

したがって、誰のために行うのか?という観点が抜ける懸念があり、MaaSのための技術開発とならぬよう、意味のあるMaaSの追求をお願いしたいものである。

 

 

あ、そうそう。

少なくとも東京は、Yahoo乗換案内とICカードがあれば、予約が必要な乗り物も少ないし、日常の移動に困ることはまずないだろう。日本語や英語がわからない人への対応に注力されたい。