できない理由

駅へ向かう人の流れが支配的となる夜の有楽町駅前広場

夜の有楽町。

駅前デパートの閉店から30分ほど経っただろうか、路面の飲食店では洒落た男女がのんびりとグラスを交わす一方で、建物の勝手口からはその日の勤務を終えたショップ店員と思しき大勢の女性たちが、ハイヒールを鳴らしながら駅へ吸い込まれている。

その流れの中をよく見ると、人流に流されずにその場で漂う若そうな男性が数名。待ち合わせかと思いきや、彼らはおもむろに女性に近寄り、何やら話しかけている。なるほどナンパか。声をかけられた女性たちは、ある人は歩を早め、ある人は方向転換し、…結局この日は不漁のようである。

しかし彼らは見切りをつけるやいなや別の女性をロックオン。これが休日特有の光景なのか、あるいは毎日繰り返されている光景なのかはわからないが、マッチングアプリ全盛の時代になんともまあおかしな光景である。

おかしいのは女性に声をかけているナンパ師の存在ではなく、出会いがない(と言われる)この時代にもかかわらず、橋にも棒にも引っかからないこの有楽町駅前の有様だ。

無論、ナンパ師は必ずしもイケメンというわけではなかったし、ややくたびれた私服を召していたから、この日の光景がそのまま昨今の世相を反映しているというつもりはない。しかし彼らはこの日だけでいったい何人に断られているのだろうか。やはり都心のアパレル店員ともなると、もれなく3高イケメンと付き合っているのだろうと思わざるを得ない。

他方、もし自分が彼女たちから洋服を買う身であるとすれば、そんな彼女たちが退勤後ナンパ師にホイホイとついていくような阿婆擦れでは困る。お高く留まっているような、高嶺の花のような1軍女子の成れの果てでなければ、きっと彼女たちの言葉には説得力は感じないだろう。…と考えると、退勤後も職務を全うしているともとれる彼女たちの行動には頭が下がる。

かくして退勤アパレル店員をナンパすることは非常に難易度が高そうだと結論付け、その場を後にした。と同時に、できない理由を考えるのはできる理由を考えるよりはるかに簡単であることを再認識させられ、いささか悔しい気分にもなった。

そんな私のちっぽけな屈辱とは裏腹に、彼らは今日も挑戦者として、有楽町の街を楽しんでいるのだろう。